詩の出処
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岡本弥太 詩集「瀧」より
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とみこ(其後)
くさのなかに
たゝいてゐる雨のおとにとみこは弱つたまなこをあけた
きちがいのちゝもたれもその朝すがたをみせず
とみこのまくらもとに
大きな山ざくらがおかれてあつて
しきりに花びらがちつてゐた
とみこは
よあけのゆめのなかで
このさくらが天にさいてゐるのをみた
そのなかに
亡い母のすがたがにこにことわらつてみへた
このこわれた
とみこのうちからさくらの圓光が
どこへのぼつてゆけるだらふ
つめたくなつたとみこの頬に
まだなみだがあたゝかいのにきちがいのちゝは
夜叉のようにまた喚きはじめた
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